伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「誰?」
扉が開くと人影が見える。どうやら奥に部屋があり、数人はその中にいるらしい。声をかけてきたのは年配の女性の声だ。おそらくいつもは洗濯場にいる老女だろう。
デイモンは「俺だよ。デイモンだ。ドロシア様と話があってね」と声をかける。するとあっちも「そう。こっちにくる?」と返す。
「いや。ここでいい。窮屈ですまんな。また数日の辛抱だ」
「いいわ、慣れてる」
そのまま扉が閉められる。
ドロシアとデイモンの周囲は階段からの明かりのみになり、見える先は再び暗闇に包まれた。
デイモンは食料棚の端に置いてあったランプを持ってきていたらしく、点灯させた。明るくはなり、石壁があらわになった。どこかに通風孔があるのか、息苦しくはないけれど、空気は籠っていてあまりよくない。
「ここには、大きく三部屋あります。ぎゅうぎゅうに詰めれば百人は入れるでしょう。これは、魔女狩りの時代にひそかに作られたと言われています」
「私が最初にこのお屋敷に来た時も……?」
「ええ。クラリスたちは数日をここで過ごしました。……大丈夫ですか? 気分が悪いなら出ましょうか」
「いいえ。大丈夫です」
陽の差さない部屋がこんなにも陰鬱とするものなのかと、ドロシアは驚いた。
一階の部屋ならば、カーテンを閉めたとしても布越しに光は感じられるし、月のない夜であったとしても、真っ暗ではない。
けれど、ここは本当の暗闇だった。こんなところで息をひそめて過ごさなければならないほどの悪いことなど、誰もしていないというのに。