伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「……前に少しお話しましたね。私は、この屋敷の先にある森の中で落馬したところを、クラリスに助けられて恋に落ちました。最初はクラリスが魔女だなんて思っていなかった。不思議な雰囲気を持つ女性だとは思ったけれど、それは彼女の魅力に自分がやられているからだと思ったんです。足が治り、私は彼女に告白し、一緒にこの屋敷を出ようと言ったけれど、彼女は一度も頷くことはなかった」


突然語られたデイモンとクラリスのなれそめに、ドロシアは聞き入った。


「一度は帰ったものの、彼女のことが忘れられなかった。お礼と称して再び来れば、嬉しそうな不満そうな複雑な顔で迎えられました。……私はどうしても彼女が欲しくてね。君がここを離れたくないというならば自分がここに勤める、とオーガスト様に直談判に行ったんです」

「まあ」

「彼らは魔法のことをひた隠しにしていた。当然困ったんでしょうね。その夜、私はクラリスに言われました。『私と一緒になることは、親や兄弟、この世のすべての常識を捨てることと同義だ』と。『あなたにその覚悟があるのか』と」

「それで、デイモンさまはどうなさったんですか?」

「意味が分からなくて……私は私で自分の思いの丈を伝えることにしました。『親も兄弟も捨てるつもりはない。だが、君がいなければこの世のすべての常識は無意味だ。だとすれば結果的に捨てることになってもかまわない』とね。実際、朝も昼も晩も、私はクラリスのことを忘れられなかった。このままでは思い苦しんで死んでしまうとさえ思って求婚したのだから」

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