伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
真摯に語るデイモンの陰のある横顔を、ドロシアはじっと見ていた。
彼の、この屋敷の秘密を守ろうという決意に嘘はないだろう。だけどどうしても違和感がある。
それが何なのか、ドロシアは具体的な言葉では言い表せなかった。
「ドロシア様」
デイモンが、ドロシアの両手を掴む。彼は頭を垂れ、懇願するように掌に額をこすりつける。
「オーガスト様をはじめ、魔女が安心して暮らせる土地はここだけです。どうかここを守るのに協力していただきたい。それがひいては、オーガスト様のためにもなります」
「それはもちろん、わかってるわ」
「どんなことになっても、世継ぎを産んでくださいますか?」
「当たり前よ、私はオーガスト様を愛しているんだもの」
「でしたら……」
デイモンが前のめりになったその時、チェスターがふたりの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ここよ、チェスター」
先に答えたのはドロシアだ。
デイモンはつめていた息を吐き出し、「……話はまた今度ですね」とあきらめたように彼女の手を放した。
そして気を取り直したように、「上がりましょう」と彼女の背中を押した。