伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
どのあたりまで記憶が改ざんされているのだろう。
ドロシアとビアンカがふたりきりで話した内容までクラリスが理解しているようなのが、ドロシアには不思議で仕方なかった。
「……羨ましいわ。私の縁談が決まったとき、私の彼は父に追い払われるまま引き下がっていったんだもの。……それでも気持ちを切り替えて縁談に臨もうとしたら相手にもされていない。……本当に悔しくて。それであんなことを言ってしまったのよ。ごめんなさいね」
「ビアンカ……」
ビアンカの瞳にはうっすら涙も浮かんでいた。
どう見ても、これは本心のようにしか見えない。けれど暗示がどのあたりまで混ぜ込まれているのかドロシアには判別がつかず、どこか空恐ろしい気持ちのまま、彼女の手を取った。
「私にできることがあれば、なんでも力になるわ」
「ありがとう。投資の話がうまく行ったころ、もう一度彼と連絡を取ってみるわ。うまくいったら、絶対にあなたに報告するわね」
瞳に涙をためてほほ笑むビアンカはとても美しい。
本当はこんなに可愛らしい令嬢だったのだろうか、とドロシアは不思議な気持ちになる。
ひとつの暗示で、ここまで人が変わったようになるというのなら、それはかなり恐ろしいことではないだろうか。
なによりも、こんな変貌を見てしまったら、人を信用する気になどなれない。