伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「……すまん」

「謝らないでください。お約束しましたわね。これで絶対に立ち直ると。貴族のプライドよりも、生き延びることを考えてください」


毅然とした態度で、ドロシアはノーベリー家からの迎えの馬車に乗り込んだ。


「では、参りますよ。途中、休憩を挟みますが、それ以外に用事があるときはこの紐を引いてください」


箱馬車内に備え付けられた紐は外のベルとつながっているらしい。チェスターの説明に頷き、ドロシアは小窓から外を眺めた。

マギーとカークが目に涙をためている。父は申し訳なさそうに眉を下げていた。弟は、……屋敷の入口で、唇を噛み締めながらドロシアを見つめている。

――行きたくない。

咄嗟に思って立ち上がったのと同時、馬車は緩やかに走り始めた。
見る見るうちに、家族が、屋敷が、遠ざかっていく。


「……さよなら。みんな」


涙は、後から後から流れてきて、なかなか止まらなかった。
嗚咽が、外まで漏れていたかもしれないけれど、チェスターは馬車を止めることも声をかけることもしなかった。

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