伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます


「……オーガスト様」


ドロシアは、急に不安になった。
ただでさえ優しいオーガストが、あんなふうに引きこもりになったのは、単に猫化のせいだけだったのだろうか。
彼の人生は長い。その中で何度こんな状況を経験してきた?

それでも、彼は人を信じている。
ドロシアをここに置いてくれたのも、デイモンを受け入れて外の世界とのパイプにしたのも、愛を信じようとしているからだ。


「……私、ちょっとオーガスト様を探してきます」

「ドロシア様、オーガスト様は今外出なさっているんですよ?」


嘘だ。と思った。だけどクラリスは笑顔を崩すことはない。
あまりの上手な演技に恐ろしさを感じて、ドロシアは言葉を探すのに苦労した。


「……ビアンカは今日泊まるのよね? 部屋を用意してあげてもらえるかしら。ごめんなさい。ちょっとだけ席を外すわね?」

「ええ。私、屋敷を散歩してもよくって?」

「クラリスに案内してもらってくれる? クラリス……お願いね」

「……はい。私たちは少しのんびりしましょうか。今にチェスターがお菓子を持ってくるはずですわ」


クラリスの口の端がゆっくりと上がる。その妖艶な笑みはまさしく“魔女”と呼ぶにふさわしい。
ドロシアは初めて、クラリスに対して恐怖を抱いた。
それはひいては、“魔女”という存在そのものに対してもだ。

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