伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
部屋を出たドロシアは、オーガストの執務室に向かった。しかし、そこももぬけの空だ。
他にオーガストが行く場所と言えば一つしかない。
庭に出て森を抜けたところに、彼が心を休める場所はある。
地中に彼の父や母が眠る、あの場所だ。
「なーん」
聞こえるのはアールの声だ。
ドロシアはそろそろと木々を抜けてその場所に近づく。
やがて見えてきたクローバーの芝生には、二匹の猫の姿があった。
一匹はアール。そしてもう一匹は茶色の毛の細身の猫――オーガストだ。
「……オーガスト様っ」
ドロシアが呼びかけると、オーガストはゆっくりと振り向く。
「あの、暗示、……その。マクドネル子爵の事業を支援するということになってしまったようなんですけど、いいんでしょうか」
「ああ、……いいよ。仕方ないよね。とにかくマクドネル子爵のうちへの執着を無くさせないことには、話が進まないし」
「そうですか」
オーガストはいつも通りに話してくれている。でもどこか、遠い。
そう思えて、ドロシアは不安を感じた。
「あの……」
「……ごめんね、巻き込んで」
「なに言ってるんですか。私はあなたの妻です。一蓮托生だと申し上げたでしょう?」
ドロシアは手を伸ばして、オーガストの茶色の毛に触れた。
アールはふたりを眺めながら、「なーん」と小さく鳴くだけだ。