伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「まだ戻りませんか?」
「そうだね。戻る気配もない」
ドロシアは猫のオーガストを抱きかかえ、ソファへと腰を下ろした。
オーガストが猫になってから、当然だが夜の生活は成り立っていない。それどころか、今回はオーガストが一緒のベッドに入ろうとさえしてくれない。
彼に触れるのも久しぶりだ。
「少し外に出ませんか? 執務室に籠っていては気持ちが塞いでしまいます」
「……ずっと考え事をしていたんだ」
オーガストはドロシアの頬を尻尾でくすぐった。
そして、ぴょん、と飛びのいてテーブルの上に降りると、悲しそうな瞳でドロシアを見つめる。
胸騒ぎがして仕方なくて、ドロシアは手を伸ばした。だけど、オーガストはもうすり寄っては来ない。
「僕は君に謝らなきゃならない」
「……どうしてですか?」
「いい夫婦になろうと誓ったのに。たった半年しか経たない今、こんなことを言わなきゃならないのは本当に申し訳ないと思っている」
「だから、なんなんですか」
はっきりしない物言いに、徐々に苛立ってくる。
「たぶん、このまま、僕は人間には戻れない。……でもずっと言っているように跡継ぎが必要なんだ。僕の子だと国王に認めてもらえるような子供が。でないと、この土地を守ることができないんだから」
「でも……」
生まれないのはオーガストのせいでも、ドロシアのせいでもない。この半年間、夫婦生活はきちんとあったのだから。