伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

ドロシアは体の中にある不満を吐き出すようにひとしきり泣き続けた。
そうしてようやく落ち着いたころ、あたりを見回した。

既に街中を過ぎ、田舎道とも思われる街道をひたすらまっすぐ進んでいる。

小さな島国であるギールランドの中でも、北の辺境地を治めるノーベリー伯爵。
三十七歳だというけれど、そこまで結婚しなかったのはなぜなのだろう。

人柄の噂こそいいものを聞かないが、ノーベリー伯爵は優秀な投資家として有名だ。そもそも潤沢な資産を持っているし、投資している事業からは年間一千万ギルの収益が望めるという噂がある。


(どんな方なのかしら)


十五歳上の伯爵。腹のてっぷりした皺もたっぷりのおじさんを想像していたけれど、三十七歳ならば父よりは若いのだ。見た目さえ好みならば、恋に発展する可能性も無いわけじゃない。
少しずつ、あきらめとともに前向きな発想になってくる。


(そうだ。悪い人だなんて限らないわ。慈善事業に投資したいというくらいだから、優しい人よ)


ドロシアは、細かなレースが縫い込められた、白のドレスを見つめる。
ドレスを新たに仕立ててもらえるなんて、母親が死んで以来だ。年頃の娘であるドロシアにとって、例え望まぬ縁談のためだとしても、これだけは純粋に嬉しかった。


(せめて、このドレスを似合っていると褒めてくれますように)


両手を組み、祈るようなしぐさをした。
そして、再び外の景色を眺める。
これから行く場所が緑の多いところならいいなと、少しばかりの期待を込めながら。


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