伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます


途中何度か休憩を挟みながら、馬車はノーベリー伯爵領へと入った。


「お寒くないですか」


従者のチェスターが一度馬車を止めて中をうかがう。ドロシアは、チェスターの整った顔に思わず見入ってしまった。


「……ドロシア様?」


そして問いかけに我に返る。


(いけないいけない。いくらイケメンだからってじっと見ているのは失礼だわ)


体を動かそうとすると足や腰が痛い。ドロシアは長旅に慣れていないのだ。


「平気ですが、外の空気を吸いたいです」

「ええ。一度降りて休憩しましょう。どうぞ」


チェスターが手を差し出し、馬車から降りるのを手伝ってくれる。実家では梯子の上から飛び降りたりするドロシアだ。チェスターがしているのは通常の令嬢への気遣いだが、それが慣れないドロシアは少しばかり胸をときめかせていた。

地面に足をつけると、体全体を大きく伸ばす。


(腰が痛いわ。思い切りひねったりしたいけれど)


ちらりとチェスターを見る。美貌の従者はニコニコしたままドロシアの挙動を見つめているので、さすがのドロシアも気が引けた。腕だけを伸ばして、後は「おほほ」と令嬢ぶってもみる。

道は両側を木々に覆われた緩やかな上り坂だった。日が暮れてきたのもあるのか、朝、自領を出てきたときよりも寒々しい。けれど空気は澄んでいて綺麗だった。近くを川が流れているのか水の音がする。
< 17 / 206 >

この作品をシェア

pagetop