伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「本当ですか? オーガスト様」
「今までごめんよ、ドロシア。僕はずっと償わなければならないと思っていた。この屋敷が魔女狩りの悲劇に遭ったのは、僕の不用意なひと言が原因だったから。母から残された人生は、使用人を……魔女たちをまもる為だけに使うものだと。僕は生ける屍でもいいんだ、とね。でも君に出会って、変わったんだ。僕は生きたい。君と幸せになるために生きたいんだ」
ドロシアは涙がぼろぼろと流しながらも口元には笑みを浮かべた。
猫のオーガストの真剣な言葉が、とても嬉しく、この人はいつも猫の姿のときにばかり素敵なことを言うな、と思ったら自然に笑ってしまっていた。
「オーガスト様、格好いいです」
「……ドロシア」
ぼたぼたとドロシアの頬を伝う涙を、オーガストが舐めすくう。
その間に音を聞きつけたやって来たデイモンが、荒々しく扉を開けた。
「一体何事だ!」
デイモンは、現状を一瞬で確認すると、憎々し気に顔をゆがめた。
「……これは、オーガスト様。どうやって上がって来たんですか。階段には見張りをつけておいたのに」
「御覧のとおり、木を登って、窓を破ってだよ。猫化も、役に立つことがあるもんだね。……デイモン、暗示は解けたんだ。ドロシアには効かなかったんだよ。僕は人間に戻る方法を探す。僕に魔力があるというのなら、猫化を解く方法だって僕自身の手で見つけることができるはずだ」
デイモンはオーガストを凝視し、馬鹿にしたように笑い出した。