伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「今更何を言っているのです。あなた自身が言ったんでしょう? もう人間には戻れない気がする、と。だからこそ私は……」

「たしかに僕が言った。諦めてしまったんだ。だけど、ドロシアが自分じゃない男に愛を囁くのかと思ったら……はらわたが煮えくり返りそうだった。気付いたんだよ。それに耐えられるほど、僕の心は死んでないって。無理だなんて自分で決めるのはもうやめる。窓を破るなんて、今まで考えたこともなかったことも出来た。こんな風に、僕にはもっと、出来ることがたくさんあるはずだ!」

「だったらその姿を人間に戻してごらんなさい! 私だって別に、ドロシア様を傷つけたいわけでも、あなたを蔑みたいわけでもありません。ただクラリスを守りたいだけだ。そのために跡継ぎが欲しいだけです」


激高したデイモンは、目を血走らせて言葉を投げつける。
以前ならば目を伏せて黙ってしまったであろうオーガストが、真っ向から彼を見据えて、言い返している。
それだけで、ドロシアは感動してしまった。


「跡継ぎをつくるために、努力はする。できる限りのことをね。でも僕はドロシアと生きていきたいんだ。今までは君たちの生活を守ることが僕にとって一番の優先事項だった。でも今は、例え子ができなかったとしてもドロシアを手放すつもりはない。彼女は僕のものだ」

「それでは私たちは……クラリスはどうなるのです!」

「その時は僕が死ぬ前に、君たちにも財産を分与しよう。僕は君たちを守れなくなるけれど、みんなには自分の力で生きていってほしい」

「……そんな勝手なっ」


デイモンが歯ぎしりをしてこぶしを握る。その時、忍ぶような笑いが漏れ聞こえてきた。
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