伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
デイモンが振り向くと、チェスターが肩を震わせながら笑っている。
「は、ははっ。やっぱりすごいや、ドロシア様。あのオーガスト様にここまで言わせるなんて」
「チェスター?」
チェスターはベッドの上から下り、父親のデイモンを無視するように通り過ぎて、ドロシアとオーガストのほうへ手を差し伸べた。
「ドロシア様、先ほどは手荒なことをして申し訳ありません。オーガスト様も、申し訳ありませんでした」
オーガストはチェスターを見て首を振る。
「望んでしていたわけじゃないってことはわかっている。そもそも僕がぐずぐず悩んでいたのがいけなかったんだ」
「いいえ。僕らが、あなたに守られるのが当たり前だと思っていたのも、おかしかったんです。大切な場所や人は、自分で守らなければ意味がないというのに」
「チェスター」
「どうか、お二人とも手当てをさせてください」
チェスターはオーガストを抱いたままのドロシアを抱き上げ、ベッドへと運び座らせた。そして、足についたガラスの破片を、丁寧に見分し、大きな欠片は引き抜いた。
オーガストもドロシアの腕の中から下り、チェスターの隣に下り立ち、ドロシアの足を心配そうに見つめる。
「チェスター! わかっているのか? ドロシア様に身ごもっていただかねばどうなるのか」
「生きていくだけですよ、父上。バレないようにひっそりとでも生きていくしかないんです。伯爵家の血を継いでもいない人間が、無理やりこの屋敷を引き継いでいくなんて、やはり間違っています」
「しかし」
「まして無理やり妊娠させるなんて……そんなことをして幸せになどなれるはずがないじゃないですか。それに、今まで言えなかったですけどね。僕にも好きな人がいます。その人を裏切るようなことはしたくありません」
「なんだと?」
眉を寄せたデイモンに、チェスターは苦笑した。