伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「気付いてなかったんですね。僕とエフィーは愛しあっているんですよ。この屋敷の存続のためと割り切るつもりでしたが、オーガスト様の言葉を聞いて気が変わりました。僕も、愛する人と生きていきたい」
「お前っ、いつの間に」
「人の心に鎖などつけられないんですよ。無理やり曲げたものはどこかでひずみが出る。父上だって、反対されても母上と離れられなかったと僕にそう言ったじゃないですか」
「みゃーん」
そこで、入って来たのは白猫のアンだ。声に惹かれて戸口のほうを見た一行は、エフィーは口元を両手で押さえたまま立ちすくんでいるのを見つけた。
「わ、私。物音がしたので……驚いて」
「エフィー!」
彼女のもとへと、一心にかけていくチェスターにデイモンが苦々しい顔を見せる。
入れ替わるように猫のアンがつとつととベッドに近づき、ドロシアの足をぺろりと舐めた。
よく思い出したわね、と言われたようで、ドロシアはひどく安心した。
「アン、……アン。お願い触らせて?」
手を伸ばすと、アンはベッドの上に飛び上がり、ドロシアにすり寄った。
「みゃん」
「アン、私間違わなかった。ちゃんとオーガスト様のこと思い出したわ」
「みゃーん」
アンも嬉しそうだ。
エフィーの幸せを思えば、先ほどまでの暗示のかかったドロシアに懐かないのも当たり前だ。
「……いい加減にしてください! 私はそんな理想論が聞きたいんじゃない。魔女たちは人の世で生きられなかったからここに隠れ住んでいるんでしょう。もう誰にも頼まない。こうなったら私が……」
デイモンは、怒りの形相でドロシアに近づいてくる。
間にアンとオーガストが入るが、猫の姿ではデイモンにかなうはずがない。
足に噛みついてくるオーガストたちをものともせず、デイモンは乱暴にドロシアの腕を掴んで立ち上がらせようとした。
「なーん」
その時、一匹の猫の声が室内に響き渡った。
いつも外で墓守をしているアールが、オーガストがガラスを破った窓から入り込み、神秘的な瞳で、みんなを見つめていた。