伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「いい加減にしていただきたい。一体何の話をしておられるんですか?」
オーガストは呼びかけに我に返ったように顔を上げ、気まずそうにふたりに眼を向ける。
「なーん」
言え、というように彼の背中をアールの尻尾が押した。
オーガストはためらいながらも口を開く。
「アールが……。僕を人間に戻す方法は分からないけど、子を成す方法ならわかるって」
思いがけない言葉に、ドロシアも、デイモンも顔を晴れ渡らせる。しかし、オーガストの顔は歪んだままだ。
「……ドロシア、もし君が良ければという前提でだけど」
「はい」
「アールの命を君に融合させるんだ」
「え?」
アールはドロシアのほうに近づき、体を擦りつけてきた。「なーん」と間延びした声で鳴く。
「……どういうことですか?」
甘えてくれるのはうれしかったが、アールはそんなタイプの猫ではないはずだ。
オーガストと同じだけの年数を共有して生き、過去の凄惨な事件もすべて目の当たりにした生ける証人。どちらかと言えば父親のような目で屋敷の人々を見つめてきた猫。オーガストと同じだけ、この屋敷の存続には心を砕いてきたはずだ。
「あくまでもアールの仮説だけど。僕に子供ができないのは、僕の中にメス猫の命が混じっているからじゃないかって。男の魂にメス猫の魂が絡み合って、中性のような状態になってしまっているんじゃないかと言うんだ。だからドロシアの中にオス猫のアールの魂が入れば、ちょうどいいはずだと。……母の使い魔が僕に猫の命をくれたように。君にアールが命をあげれば、解決するんじゃないかって言っている」