伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「……アールはオーガスト様と同じくらい長い期間を生きてきたんですよね? たしか、これが九回目の生だっと聞いた気がします。だとしたら私に渡せるような命はもうないんじゃ……」
「なーん」
アールが鳴き、オーガストが通訳をする。
「君に渡すのは、九回目の今の生だって。魔力の強いクラリスならば猫と人の融合ができるはずだと言っている」
「その場合、私はどうなるんですか?」
「融合だから、死ぬわけじゃないって」
だとしたら、もしその魔法でアールとドロシアの魂が融合したならば、アールの九度めの生とドロシアの一度の生が同じものとなるわけだ。
「……だったら、オーガスト様もそうだったんじゃないんですか? 瀕死の状態だったかもしれないけれど、死んだわけじゃなかったから猫と命の融合ができたんでしょう?」
「ドロシア? 何を言いたいんだい?」
オーガストは気付いていないようだ。ドロシアは伝わらなさに歯噛みする。
最初に身の上話を聞いた時、ドロシアはオーガスト自身の命はなくなり、猫の命をもらったのだと思っていた。以降の生まれ変わりの生は猫の魂のものだと。しかし、今の話だと、命をもらうというのは魂の融合ということらしい。だとすれば、何度生まれ変わったにせよ、もともとのオーガストの魂は今も彼の中に残っているということだ。
「……融合できるなら、切り離すこともできるんじゃないんですか? オーガスト様の魂と、猫の魂を」
「え?」
「つまり、私にアールを加えるんじゃなくて、あなたからお母様の使い魔の猫を引くんです。あなたを、もう一度ただのオーガスト様に戻せばいいんです!」
オーガストは目をパチパチさせてドロシアを見ている。