伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「あとどのくらいかしら?」
「あと三十分も走れば着きますよ。もうすぐです」
(まだ三十分もあるのか)
確かに今までかかった時間を思えば短いだろうが、ドロシアにとっては長い。
もう少し休憩したくて、チェスターに話しかけた。
「……ねぇ、ノーベリー伯爵ってどんな方なのかしら。私よりちょっと年上なのだとお聞きしているのだけど」
「オーガスト様は……ええと、三十七歳ですね。年齢よりお若く見えますので、ドロシア様と並ばれてもお似合いですよ。猫伯爵と噂されているのは耳にされているかと思います。屋敷にはたくさんの猫がおりまして、それでそんな風に言われているんですよ」
「猫って最近じゃ珍しいのかなって思っていたのだけど。ほら、魔女狩りの頃? 結構狩られてしまったというじゃない」
「ああ、百年くらい前でしたね。猫は魔女の使い魔だということでその時に多く殺されたんですよね。ノーベリー邸に猫が多いのはそのせいなんです。オーガスト様の祖先は、理不尽な魔女狩りに反対し疑われた女性や猫を多くかくまったという話ですよ」
「そうなの。お優しい方だったのね。そんな方の子孫ですもの。きっとオーガスト様もお優しいわよね」
小さなことから希望を見出そうと、ドロシアはひとりごちて頷く。