伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「僕を、……僕に戻す?」
「可能かどうかは分かりませんが、検討する価値はあると思いませんか? お願いデイモン、クラリスを呼んできて」
「は、はっ」
急にきびきびとしたドロシアに、デイモンは思わず背筋を伸ばして従った。
慌てて部屋を出て、去り際に不思議なものを見るようにドロシアに視線を送る。
ドロシア自身は、自分の思い付きに興奮してそれには気付かなかった。
アールは、落ち着いた表情を崩さずにドロシアの足の傷をぺろりと舐め、「なーん」と鳴いた。
「……君はすごいね、って言ってる」
オーガストはぴょんと飛び上がり椅子の上に乗ると、体をしなやかに伸ばして、彼女の耳もとに囁く。
「アールがですか?」
「そんなこと思いつきもしなかったって言っているよ?」
ドロシアは思わず顔を赤らめた。
単純に足し引きの問題で考えただけだ。逆にあまり魔法の知識がないから思いついた理論だともいえる。
それに、この考えが本当に正しいかなど分からない。
「……褒めるのはすべてうまく行ってからで結構です」
そっけなくそう言うと、「格好いいなぁ、ドロシア」とオーガストが笑う。
やがて扉をノックする音が聞こえ、見るとチェスターが立っていた。
「話は聞きました。今父が母を連れに行っています。戻ってくるまでの間に、足の手当てをいいですか?」
チェスターの手には小さなクルミの器に入った塗り薬があった。