伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「エフィーが作っている傷薬です。普通のものより効きがいいので、すぐに治るはずですよ」
「エフィーは?」
「アンをなだめています。アンはアールが好きだったようで、アールが死んでしまうと思ってショックだったんでしょう。……でも父から聞いた話を、エフィーにも伝えてきたので、すぐに機嫌は直ると思いますよ」
チェスターは手際よくドロシアの足から細かな破片も引き抜き、薬を塗って包帯を巻いた。
「ありがとう。これ、オーガスト様の頬の傷にも効くかしら」
クルミの器を指さすと、「ええ、もちろん」と渡してくれる。
ドロシアは可愛らしい形に和みつつ、薬指に薬を取り塗ろうとした。しかし、今のオーガストは猫だ。毛の奥にある地肌になかなか届かない。
「……なんか毛にばっかりついちゃいますね」
「仕方ないよ。それに、僕のはたいした傷じゃない」
「でも、早く治ってほしいですし」
「僕より君だ。この傷が治ったら、もう二度と怪我なんかさせない。仮に人間に戻れなかったとしても、絶対に君を守るよ」
「まあ」
猫の姿なのに、とても凛々しく見える。希望の光を宿したオーガストに、ドロシアは以前よりもずっと胸がときめいていた。