伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
男爵には娘と息子がいるが、息子のほうは早々にこの暮らしに愛想をつかし、街に働きに出ている。
娘のドロシアは、奥方の代わりに屋敷の管理をする日々だった。
そして今、手紙を読み進める男爵は、久方ぶりに目を輝かせ、感極まったように嘆息した。
「お、おお」
雲が切れて、窓から日が差し込んでくる。
男爵の唇が、久しぶりに上向きの弧を描いた。
「ふ……ふふふ。どうやら運がめぐってきたようだ」
そのまま男爵は執務室を出て、物があまりないただ広いだけの屋敷で声高に叫ぶ。
「マギー! どこにいる? ドロシアをここに呼んできてくれ」
マギーは、重い腰をあげ、ゆっくりとロビーに出て主人に問いかける。
「どうなさったんですか旦那様」
「いいからドロシアを早く。これは、メルヴィル家の存続にかかわる事態だとな」
あんなにふさぎ込んでいた主人がどうしたことか、とマギーは肩をすくめ、令嬢を探すために彼の前を辞した。