伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「ね、怖くないわ。こっちに来て?」
手を伸ばすと、猫は素直に寄ってきた。撫でても怒らないことを確認したドロシアは次に抱っこをした。それでも猫は逃げることなく尻尾で彼女の頬をくすぐる。
ほこほこした体はあたたかくて、ドロシアはホッとして座り込んだ。そして歩き続けて疲れていたのもあって、猫を抱いたまま寝てしまったのだ。
次に目を覚めた時は、半泣きの母親に体をゆすられてだった。
その後バタバタとしていて忘れてしまっていたけれど、あんな猫にならもう一度会いたいものだ。
そう思いながら寝返りを打ち、体を反転できたことに驚く。
(あれ、私は確か馬車に乗っていたはずじゃ……え? うそ!)
体は温かく、自分を包む感触はふわふわだ。
驚きとともに目を開けると、予想したのとは違う風景が広がっていた。
最初に目に飛び込んできたのは、ガラスの細工の美しいシャンデリア。部屋は広く、ソファも置いてある。そして今ドロシアがいるのは、赤地に金の刺繍がされたベッドカバーのついたベッドの中だ。
「ここ、どこ……って、いやあ! 寝過ごしたの?」
慌てて起き上がるも部屋には誰もいない。
猫の声が聞こえたような気もしたが、今は姿が見えなかった。
ドロシアはベッドから足を出して腰かけ、現状を確認した。