伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
まず服は、着てきたときの通りだ。白のたっぷりとレースをつけられたドレスは当然ながらそのまま寝ることは想定されていないので、思い切り皺がついてしまっている。
鏡がないので見えないが、結い上げてきた髪もほつれてしまっているだろう。うなじを触れば後れ毛が踊っている。
カーテンが引かれていて気付かなかったが、隙間から入ってくる光は明るい。最後の記憶が夕方だったということを思えばきっと今は朝だろう。
「ということは、あのまま馬車で寝てしまって、一晩たつまで起きなかったってこと?」
しかも、こうしてベッドで寝ているということは、誰かが運んでくれたはずだ。
なのに、その記憶さえ全くないとは。
「なんて失態なの……」
穴があったら入りたいとはこのことだ。
ひとり恥ずかしがるドロシアの耳に、カタン、という物音が届いた。
「みゃー」
扉が少し開いたかと思うと、白い毛並みの猫がすたすたと入ってくる。ドロシアの足元まで来て、ひと鳴きすると窺うように見上げてきた。
「猫……! か、かわいい」
ドロシアが記憶している猫よりずっと小さくて、声もかわいい。
白い毛はふわふわとしていて柔らかそうだし、琥珀色の瞳はなにかを問いかけているようだ。