伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
後ろ頭を殴られたような衝撃とはこのことだ。
(いや待って待って。赤毛がそんなに悪い? そりゃ確かに行き遅れだけどもそれ、赤毛関係ないし。それでもあなたより十五も若いですからー! そっちだってその年まで結婚できなかったんでしょ? えり好みできる立場?)
「ドロシア嬢?」
ノーベリー伯爵に問いかけられて、はっと我に返った。
(いけないいけない。怒りが顔に出ていたかもしれない)
恥じらう風を装って頬に手を当てる。ノーベリー伯爵は目尻にしわを寄せ、親し気に彼女に手を差し伸べた。
「改めて、僕はオーガスト=ノーベリ―。三十七歳だ。君の荷物はこれだけ? それに侍女を連れてはこなかったんだね。うちは最低限の使用人しかいなくてね。君の侍女に回せるような召使がいないんだが」
「侍女は必要ありません。私は自分のことはすべて一人でできます。荷物が少ないのは、……その。言いづらいのですけど」
「支度金は借金に当ててしまったのかい?」
知っていたのか、とドロシアは息を飲む。
本来、支度金とは嫁に入る娘の調度を整えるためのものだ。ドロシアは気まずさに目を伏せる。
「す、すみません」
「あはは。だろうと思ってたから気にすることないよ。君のお父上が借金まみれなことも知っている。君が、これから僕のいうことを聞いてくれるなら、父上の事業を立て直すまでの支援もしようと思っているんだ」
「え? 本当ですか?」
それは思ってもみないほど良い提案だ。