伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
しかし、ドロシアはすぐには頷けなかった。だって縁談の申し込みを受けたとはいえ、ドロシアと伯爵は初対面だ。それにこの様子を見ていると自分に一目ぼれしてくれたということもないだろう。父親とは違って、ドロシアにはうまい話は疑う癖がついている。
「……なぜ、伯爵さまはメルヴィル家によくしてくださるのですか?」
理由を知りたくて、ドロシアは息を詰めて彼を見上げる。
しばし二人の間に緊迫した空気が漂った。彼の引き締まった口から真実が語られるのかとその動きを見ていたら、予想に反してふにゃっと笑い、「んー、たまたま?」とふざけたように言う。
ドロシアはずっこけそうになった。重大な秘密が聞けるのかと思ったのになんだというのだ。
「たまたまで慈善事業をするとはずいぶん余裕がおありですのね!」
思わず嫌味が飛び出してしまい、ドロシアは慌てて口を押さえる。
助けられているのだからこんなことを言える立場ではないのだが、ゆるゆる具合が父に似ていてイライラしてしまう。
伯爵は困ったように笑うと、眉を吊り上げているドロシアに穏やかに言った。
「本当にたまたまなんだ。探していたのは、家が貧乏で、結婚適齢期をすぎてしまった結婚に夢など見ていないだろう令嬢だった」
(失礼な。夢は持ってるわよ、今まさに砕かれているけどね!)
神妙に語る伯爵を見ながら、ドロシアは心の中で毒づく。