伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「僕の噂は聞いているだろう? 人付き合いができず、猫屋敷にこもる偏屈だ。とはいえ、伯爵家としては世継ぎができなければ僕が死んだあと財産や領土没収の憂き目にあう。一人でいいから僕の財産を継がすことができる男児が必要なんだ。そこで考えたんだよ。ノーベリー家には潤沢な財産がある。お金に困っている貴族を助ける代わりに、嫁に行き遅れた娘に子を産んでもらおうと。そこで浮かび上がってきたのは君だ。僕がメルヴィル家の借金を代わりに返済してあげる。その代わり、君にはこれから知るであろう秘密を誰にも漏らさず、世継ぎを産んでほしいんだ。勿論、それ以外は君の好きなようにしていいよ。どんな贅沢を望んでも構わないし、子を産んでからなら愛人を作ったっていい」

「おい」


心の中のツッコミがついに言葉に出てしまった。
伯爵は空耳か?という顔をしてあたりをきょろきょろしている。

ドロシアはこぶしを握り締めて、何とか冷静を保っていた。

うまい話には何か裏がある。だから何かしらの条件を付けられるだろうとは思っていたけれど、今の発言はショックだった。なんだか知らないけど秘密を守るのはいい。子を産むのも嫁ぐからには当然の要求だ。だけど最後のところだけは納得がいかない。

やり過ごそうかと思ったが無理だ。ドロシアはキッと顔を上げて伯爵をにらみつける。


「バカにしないでください。私は贅沢がしたいわけではないし、夫と子がいるのに浮気をするようなふしだらな女でもありません!」


愛人をもってもいい、などとこれから結婚する相手に言われるのは屈辱だ。悔しすぎて涙が浮かんでくる。
視界の中の伯爵が滲んだ、と思ったら途端に慌て始める。
触るか触らないかの距離でドロシアに向かって弁解をし始めた。
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