伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「……そんな前向きな言葉を聞けるとは思わなかったな」
「え? あの。……ノーベリー伯爵?」
怒られると思ったのに、伯爵は予想外にも穏やかに話し続ける。しかも、眉を下げ、申し訳なさそうな顔までするではないか。
「すまない。行き遅れの娘なら結婚に希望など持っていないかと思ったんだ。割りきって子を作って、後は好きに生きてくれると。……しかし、君がそれを望むなら」
「伯爵」
(もしかして、私の気持ちわかってくれたのかしら)
ドロシアは期待を込めて彼を見つめた。
十五歳上の彼との結婚を喜んでいたわけではないが、こうも誰でもいいといった態度をとられては傷つく。
ドロシアは、歳が離れているなりに一緒に暮らす努力をしたいのだ。
しかし、伯爵から飛び出した言葉は、期待に反した言葉だった。
「やはり君は帰ったほうがいいだろう。チェスターに送らせるよ」
(断られた……)
ドロシアはショックだった。何がいけなかったのだろう。夫となる男に手を出すようなはしたなさか。確かに自分には令嬢らしさがが無い。
何にせよ、自分そのものを否定されたような気がして、胸が苦しくなる。
「……でも私。もう支度金は返せませんし」
「大丈夫。支度金は差し上げよう。援助の話は申し訳ないが……」
「……それは、結構ですけど」
あくまで声を荒げることなく、伯爵は淡々と語る。