伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
(違うのに。私はただ、これから仲良く暮らしていこうって言ってほしいだけなのに。それともこのそばかすがいけないの? 赤毛? それとも着いたことにも気付かずに寝こけていた図々しさ?)
ドロシアは傷ついていた。
十五歳も上の男性など売られていくようだ、と思いながら、内心、望まれたことには嬉しかったのだ。
だけど彼はドロシアを望んでいたわけではなかった。伯爵は単純に世継ぎを産む妻が欲しいだけで誰でもよかったのだ。
最初は愛はなくても、せっかく夫婦となるならばゆっくりと愛を育てていければいい。
ここに来るまでに考えていたそんな前向きな考えは、甘いものだったのだと知る。
そして、その甘さが必要ないのだと、今彼は言っているのだ。
唇を噛み締めているドロシアの頭を、伯爵は小さい子供にするように優しくなでる。
「しかしまずは食事だな。部屋に持ってこさせるから、食べたらお帰り」
そして、顔を合わせることもないまま部屋を出ていった。
先ほど拭ったはずの涙が、再びドロシアの瞳に盛り上がり、こらえきれなくなった粒が床を濡らしていく。
「ふざけないで。……子ども扱い、しないでよ」
こんなにも傷ついているのが悔しくて、ドロシアは袖で涙をぬぐった。