伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
3.白猫と黒猫と茶色の猫と
ドロシアは溢れてくる涙を両手で押さえながら唇を噛み締めていた。
大声で泣くなど、悔しくてできない。ドロシアにもプライドがあるのだ。傷ついているなんて思われたくはなかった。
「にゃあん」
いつの間にか、足元には先ほどの白猫がいた。床に落ちたドロシアの涙をなめすくっている様子は可愛らしく、ドロシアの涙も引っ込んでいく。驚かさないようにゆっくりとしゃがみこんだ。
「汚いわよ?」
「にゃん」
まるで会話が通じているかのように返事をくれる白猫に、ドロシアは親近感を抱き始めていた。昔会った猫のように抱っこさせてくれないかしら、と手を伸ばす。
しかし、この猫は触られるのはあまり好きではないらしい。さっと身をひるがえすと、ドロシアを見つめて前足をタンタンと二回鳴らした。
「どうしたの?」
「みゃ」
白猫は不意に踵を返して、何度かドロシアのほうを振り向きながら出て行ってしまう。
「あ、行っちゃうの」
寂しさに引き留めたら、猫は立ち止まりドロシアを見つめたまま「みゃーん」ともう一鳴きする。
「……ついて来いって言ってるの?」
「みゃ」
再び猫が歩く。ドロシアはその後について部屋を出た。