伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
左右に廊下が広がり正面には欄干、その向こうに一階へと続く階段があった。廊下は長く続き、等間隔に扉が並んでいる。屋敷の広さに呆気にとられたが、猫が階段を下りて行ってしまうのを見て、ドロシアは慌てて追いかけた。
白のドレスで屋敷を走ればさぞかし目立つだろうと思うのに、途中、使用人に会うこともないまま外に出れてしまった。猫はドロシアが追いかけてきているのか確認するように時折振り返りながら、庭を突っきって行く。
「待ってよ、猫ちゃん……うわ」
庭から直接つながった所に、森があった。
まるで入り口ですよとでもいうように、人が三人くらい並んで通れそうな幅の舗装されていない道があり、両脇に木が生えている。枝葉が伸びていて、道をドーム状に囲うようになっているのが秘密のトンネルみたいでまた素敵だった。
「素敵だわ……。行ってもいいのかしら」
そろそろと歩きながら蔦が這った木を触ったりしていると、白猫が無言のまま足にすり寄ってきた。
「どうしたの、猫ちゃん」
猫は鳴かない。ただ、尻尾をピンとたてて先を促す。
「あっちになにかあるの?」
意味ありげな白猫の瞳に吸い込まれるように、ドロシアからも言葉が消えていった。