伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
今はしゃがんでいるけれど、先ほど立ち並んでいた時はかなり見上げたから、百八十センチはあるだろう。
あっさりした印象しかないが、彫りは深いし、顔の造作は整っている。インパクトのない美形と言えばいいだろうか。
偏屈だという噂だったけれど、今までのところ話しにくいということもなく、話した感じはどちらかと言えばぽやんとした印象だ。それに何よりお金持ちだ。
年齢差が十五歳ということ以外には、彼に落ち度などない。
この結婚に対してどこまでも下手に出なければならないのはメルヴィル男爵家の方だ。
(なのにどうして、彼は、自分が悪いような言い方をするの?)
ほのかな興味ではある。
でも、ドロシアはもっと彼のことが知りたいとも思い始めていた。
もっと話を聞きたいと耳をそばだてていると、ふと、足のあたりがくすぐったい。
白猫の尻尾がドロシアのドレスの中に入り込み、頭で足を押していたのだ。
「え? なに? 行けって言ってる?」
「みゃあ」
「でものぞき見してたって知られたら」
「みゃあ」
いいから行けとでもいうように、一層強く頭をこすりつけられた。
まるで本当に人間の話が通じているみたいな猫だ。
(……通じてるんだわ、きっと。そして私の背中を押してくれてる)
そんなことがあるはずがないのに、ドロシアは素直にそう信じる気持ちになっていた。