伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「ああ。気にしていたのかい? 君は何も悪くないよ。ただ、僕とは合わない。それだけだ」
あっさり断じられて、唇を噛み締める。
「わ、私の何がお気に召さなかったんですか? 赤毛だから? そばかすだから?」
話しているうちにコンプレックスまでもが顔を出す。
ドロシアは恥ずかしくなってきて自分の髪をくしゃくしゃにかきむしった。
ただでさえほつれていた髪が、ボサボサになっていく。
「こらこら」
伯爵はドロシアの手を掴むと、くしゃくしゃになった髪から、結ってあったリボンやピンを引き抜き、手櫛で整えてくれた。癖のある赤い髪が鎖骨のあたりにふわりと落ちる。
男の人にこんな風に髪を触られたことはなくて、ドロシアの動悸は激しくなるばかりだ。
「この髪は綺麗じゃないか。君によく似合っているよ」
「嘘。だってさっき、赤毛に幻滅したみたいだったじゃないですかっ」
「幻滅なんてしていない。驚いただけだよ。……それより、結婚が破談になるのは君のせいじゃないから、何も気にしなくていいんだよ。父上に叱られるというなら違約金を持たせてあげよう」
どこまでもドロシアを帰そうとする伯爵にもどかしくなる。別に望んで来たわけでもないけれど、せっかくここまで来たのにと、意地にもなっていた。