伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
ドロシアは二十二歳。
通常、貴族の娘は二十歳までには嫁入り先が決まるので、完全に行き遅れだ。
その理由は、ドロシアが身分違いの恋をしているわけでも、女としての能力に欠陥があるというわけでもなく、単に出会いがないことと、持参金を用意できないことだ。家が没落寸前では、彼女を娶ることに利があるわけでもなく、社交界に出るにはお金がなさすぎる。ドロシアはドレスさえ新調できないのだ。
弟を見習って職業婦人として生きる道も考えたが、使用人がほとんどいなくなった今、裕福だったころに建てられたこの屋敷を維持するだけでも人手が足りないのだ。
母との思い出の家を失うわけにはいかないと、ドロシアは毎日、汚いぼろをまといながら屋敷の管理に奔走している。
「で? 私を探していたのは何?」
ドロシアに問われて、マギーは思い出したように両手を打った。
「そ、そうです。お嬢様。旦那様がおよびです」
「お父様が? もう死んでやるとか言っているのではないでしょうね」
「そうじゃありませんわ! とにかく、早くこちらへ」
「待ってよマギー、はさみを片付けないと危険だわ」
「もうっ、それは私がやっておきますから、早く中にお入りください。珍しく旦那様が元気だったんですよ。なにかいい知らせだったのかもしれません。早く、執務室に」
妙に真剣に追い立てられるので、仕方なくドロシアは剪定ばさみと梯子の片づけを彼女に頼んで、屋敷の中へと戻った。