伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「暇があればエフィーの手伝いや、掃除まで苦も無くやってくださるし、健康で明るいときています。加えて、実家の窮状を考えればあの方はあなたや僕らを裏切るようなことはなさいませんよ。これ以上の相手はいないでしょうに」
「だから、馬の脚が調子悪いなどと言ったのかい? 仮にそれが本当だとしても、君たちならばすぐ治せるだろうし」
「すぐは治せませんよ。我々の力は万能じゃありません。あなたのその呪いを解くことができないようにね」
話の内容が、彼の秘密にまつわることだとわかって、ドロシアは息を飲んだ。
「呪い……ね。はは。それは言いえて妙だ」
足がくすぐったいと感じて足元を見ると、アンが尻尾でくすぐりながら息をひそめてドロシアを見つめていた。まるで、続きを聞く覚悟はあるか、と問いただされているようで、ドロシアは一瞬気圧される。
でも、ここから立ち去る気にもなれなかった。
「あの子は純真だ。こんな化け物の妻になるんでは可哀想だよ」
(化け物?)
「あなたは人間ですよ」
「これをまともな人間とは呼ばないよ」
「ドロシア様はあなたに好意を持ち始めている。いいじゃないですか。あなただって満更でもないのでしょう? こうして彼女を気遣うくらいには好意がある。違いますか?」
「……妻が必要なことはちゃんとわかっている。ドロシアを帰したら、すぐに次の候補者のもとへ手紙を書くよ。それでいいだろう。この話は終わりだ」
オーガストが動く気配がした。出てきたら盗み聞きがばれてしまう。慌てふためくドロシアのドレスの裾を、アンが咥えて引っ張った。