伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

アンが進む後について、細い廊下へと入っていく。どうやら主に使用人が使う裏側の出口に出てきたらしい。裏庭に出て、緑豊かな木々を見たら途端に力が抜けて、ドロシアは座り込んだ。


「さっきの、なんだったんだろう」

「みゃあん」


アンは隣に座り込んでドロシアを見上げてくる。“さあ、どうするの?”と問いかけてくるような意味ありげな視線だ。ドロシアもアンの神秘的な琥珀色の瞳を見つめた。


「化け物って……」


朝の想像がよみがえる。もし、オーガストが猫に変身できるのだとしたら、全てに説明がつくのではないだろうか。本人が自分を化け物だというのも、頷ける。


(だとしたら、私、彼の子供を産める……?)


猫に変身するような人の子供を?
生まれてくる子供も、同じような秘密を抱えるようになるのだとしても?


「みゃあ」


知ったら帰せないと彼は言った。

伯爵が猫に変身するなどと知れたら、確かに大事だ。
オーガストは化け物として糾弾され、おそらくは処刑されるだろう。周りにいた人間だって仲間と思われ、ひどい目にあわされる。百年前の魔女狩りの再来だ。

だから、弱みを持った花嫁が必要だったんだ。
親の事業を支援してもらえば、どんな秘密にだって口をつぐむだろう。ひとたび妻となってしまえばもう一蓮托生だ。バレれば妻だって殺される可能性がある。
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