伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます


 しかしその後、ドロシアはオーガストと二人きりになる機会が持てなかった。


「オーガスト様、夕食は……」

「悪いね。僕は夜はほとんど食べないから。チェスター、ドロシアの夕食に付き合ってやってくれ」


日が落ちる頃には部屋に籠って姿を見せてくれない。


「……私、嫌われているんでしょうか」


ぼそり、とチェスターに漏らすと苦笑したまま「オーガスト様は最近疲れやすいんです」と言われる。
チェスターは世間話には付き合ってくれるが、側に立ったまま使用人としての立場を崩そうとはしないし、
エフィーを呼んで同じ席についてもらっても、あくまで命令あってのことで対等の関係とは到底言えず、ドロシアは切なかった。

(マギーだったら、使用人っていっても家族みたいだったのに)


あくまでも、ドロシアはここでは“お客様扱い”だ。


寂しさを募らすドロシアに、優しいのは猫たちだった。
しょぼくれていると、アンをはじめとして猫が群がって来てくれる。


「ありがと、みんな」

「みゃおん」


その中には、オーガストが親しそうにしていた黒猫のアールもいる。


「なーん」

「アール。お前のご主人様はいったい何を考えているの?」

「なーん」

「このままじゃ、明日帰されちゃう。ゆっくり話さえできなかったわ。……どうしよう」


アールはアンと顔を見合わせ、ドロシアの足に体をこすりつけた。
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