伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます


そして、翌日。

朝から四頭立ての馬車が玄関前に用意されており、ドロシアは朝からオーガストに追い立てるように準備をさせられていた。
まだ一度も袖を通していないドレスも再びスーツケースの中に入れられ、馬車に積まれていく。


「さあ。準備はできたかい?」

「あの、私」

「お父上に手紙を書いた。これで君が責められることはないはずだから」


差し出された手紙を破ってしまいたいような気分になりながら、ドロシアは受け取った。
どうあってもオーガストはドロシアを帰すつもりでいるらしい。


「荷物はすべてのせましたよ」


チェスターの言葉に、オーガストはドロシアの手を取って口づけをした。


「君に会えて嬉しかったよ、ドロシア。どうか幸せになってほしい」

「……」


ドロシアは返事ができなかった。
幸せになってほしいというのなら、このままここにいさせてくれればいいのに。


「みゃおん」

アンが足元に駆け寄ってきて鳴いた。

“このままでいいの?”と言われた気分だ。
アンはいつだって、ドロシアを試すように神秘的なまなざしで見つめてくる。


(言わなきゃ。……言わなきゃ!)


アンに勇気をもらってドロシアは続ける。
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