伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「オーガスト様! 私、ここにいたいです。こんな短期間でって思うかもしれないけど、私、オーガスト様が好きになったんです。もっと、オーガスト様のことを知りたいんです」
(帰らなくていいって言ってほしい。お願い、ここにおいて。オーガスト様)
ぽとり、足元に涙が一粒落ちる。
オーガストは慌ててドロシアの頬をぬぐった。
「ありがとう、ドロシア。僕も君が好きだよ」
「じゃあ」
期待を込めて見上げたら、悲しそうなオーガストの瞳とぶつかる。赤みを増した瞳が眉をひそめたドロシアを映した。
「でも、ごめんね。……お帰り」
「秘密のことなら……私、平気です。もしかして違ったらごめんなさい。秘密って、あなたが、ね……」
“猫になるってことなんじゃないですか”
続けようとしていた言葉は、オーガストの口の中に吸い込まれた。
ドロシアは驚きで目を見張る。彼の唇が、ドロシアの唇をふさぎ、舌を絡めて自分から言葉を奪っていく。
(こんなキス、初めて)
オーガストはなかなか離してくれなかった。舌に口内を蹂躙されて、ドロシアからは力が抜け、彼に体を預ける。
オーガストはとび色の瞳を切なげに歪ませて、ゆっくり唇を離した。
「お帰りドロシア。幸せになるんだ。……チェスター、彼女を頼む」
強引にドロシアの体をチェスターに託す。
何を言ってもダメなのだ、とドロシアだけでなく、チェスターや猫たちもそう感じたのだろう。
チェスターは諦めたように言葉を失ったドロシアを馬車へと連れて行った。