伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
5.猫伯爵の秘密

チェスターにエフィー、そして猫たちが温かく見守る中、ドロシアは猫のオーガストを抱きしめたままで立ち上がる。腕の中のオーガストは毛並みもよくふわふわだ。思わずぎゅっと抱き締めると、苦しかったのかもがくようにして腕の中から飛び出した。


「あ、待ってください。オーガスト様」


オーガストは尻尾をピンと立ててまま、首だけを傾けて後ろを向いた。


「ドロシアは部屋で休んでいて。いつ猫の姿から戻るか、自分でも分からないんだ。戻ったら会いに行くよ」


そう言って、オーガストは屋敷のほうへと走って行ってしまう。


「……行っちゃった」


取り残されてしまったドロシアは、拍子抜けしてあたりを見回し、落ちていた彼の服を拾った。
これがあるということは今まで見たことは幻じゃない。信じがたい現実を再確認するように服を握りしめる。


「お預かりします。これがないと旦那様が困ってしまう」


苦笑したチェスターが、それをドロシアの手から受け取り、「ドロシア様の荷物は部屋に戻します。しばらく自室でお待ちください」と言った。


ドロシアは頷いて部屋へと向かった。猫たちはドロシアに「にゃー」と声をかけると庭や森の方向へ消えていく。アンだけが、彼女が部屋に行くまでついてきて、ドアの前で「みゃー」と小首をかしげて鳴いた。


「ありがとね、アン。私が頑張れたの、あなたのおかげだわ」

「みゃー」


アンは満足したように鳴くと、そのまま廊下を走って行ってしまった。
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