伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

残されたドロシアは、チェスターが運んできてくれた荷物を整理した。
今度こそ、ここを終の住処にするという決意だ。クローゼットにお気に入りのドレスを並べ、その足元には弟が作ってくれた靴を並べる。家族の写真を棚に置き、そういえば父にも手紙を書かなければと思い至った。

でもまあそれもここでの生活に慣れてからだ。

ドロシアはベッドに腰かけてオーガストがくるのを待つ。
しかし、猫から戻るには予想外に時間がかかるらしい。なかなか来ない彼にしびれを切らしたドロシアはうっかりベッドに体を預けて眠ってしまった。

やがてドアをノックしたのはチェスターだ。その音に目が覚めて、ベッドの上で半身を起こした。


「ドロシア様、……あ、すみません。お休み中でしたか。オーガスト様の準備が整いましたが、いかがいたしましょう」

「ごめんなさい、寝てしまって。オーガスト様のところに行きます」


(最近寝てばかり。……恥ずかしい)


こっそり口の周りを押さえ、汚れていないかを確認し、立ち上がる。チェスターはドロシアが靴音をさせながら近づいてくるのを微笑みを浮かべながら見ている。そして、エスコートするように手を差し伸べた。


「改めてドロシア様、よろしくお願いいたします。オーガスト様の猫化のことを知ってもなお気味悪がらずにいてくださるなんて、本当にうれしいです」

「チェスター達も猫化するの?」

「いいえ、我々は違います。オーガスト様があのような呪いにむしばまれたのには理由があるんです。それをご説明しますので、こちらにお越しください」

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