伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
チェスターに連れられて、ドロシアは小ぶりの応接室へ招かれた。
一枚板で作られた重厚な机を挟むように両側に二人掛けのソファが置かれている。窓からは柔らかい光が差し込んでいて、棚に飾られた花が部屋を少し華やかに見せてくれている。
ソファに座ったオーガストが、しっかりと服を着込んで足を組んでいた。ドロシアを見つけると相好を崩して手招きをし、隣に座らせた。
「さっきは変なところを見せてしまったね」
「ええ。でもよかったです。でなければ帰されてしまうところでした」
「最近は猫になる時間が多くてね。疲れるとすぐなんだ。だから領地の外にもなかなか出れなくなってしまった」
もしかしたら、夕飯を一緒に食べてくれなかったりしたのもそのせいだったのだろうか、と思う。
ドロシアがこの屋敷にいた期間、一日のうちでオーガストが姿を見せてくれたのはせいぜい、二、三時間だった。
それも別に嫌われていたからではなかったんだと思えば、心が軽くなるのを感じた。
オーガストはニコニコしながらドロシアの赤毛を撫でる。
秘密がばれた途端に、オーガストは拒絶の意思が無くなったみたいだ。一緒にいても笑ってくれることは嬉しいのだが、ドロシアの心臓は変に落ち着かない。
「……覚悟はいい?」
「覚悟ってなんですか?」
「猫になることだけが秘密じゃないんだ。聞いて君は後悔しない?」
これ以上まだ何かあるというのか。
一瞬息を飲んでしまったが、ドロシアの腹はもう決まっている。オーガストとともに生きていくのだ。
「でももう一つ秘密を知ってしまったんですから、何を聞いても一緒です。さ、安心して話してくださいませ」
ドロシアがあっさり言うと、オーガストは楽しそうに笑い出し、ドロシアのそばかすの浮いた頬を愛おしそうに撫でた。