伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「じゃあ言うよ。まずはね、僕の年なんだが。三十七歳だと言っただろう。まあ間違っているわけでもないんだが、実質僕は百年以上生きている」
「……なんておっしゃった?」
思考が追いつかない。百年なんて、人間が生きていられる長さではない。いや、まれに長生きしている人間がいるかもしれないが、平均寿命は六十歳くらいだ。
「やっぱり驚くよね。でも本当なんだ。僕が一番最初に死んだのは、魔女狩りの時代だ。当時十七歳だった」
「待って待って待って。話がつかめないわ」
目の前にいるのは、どう見ても壮年の男性だ。そりゃしっかり猫に変身するところも見てしまったのだから、ただの人間だとは思っていないけれど、百歳のおじいちゃんにはとても見えない。
(こういうの、美魔女……いや、美魔男っていうのかしら)
ドロシアの刺すような視線に、オーガストは苦笑して、「いや、体はちゃんと年相応のものだけどね」と続ける。
「僕は猫憑きなんだ」
「猫?」
「正確には使い魔が乗り移ったと言えばいいかな。うーん。説明しようとすると難しいな」
オーガストは困ったように目を泳がしたのち、チェスターに紙とペンを持ってこさせた。
「混乱させるとまずいから、時系列で話そう。僕が生まれたのは今から百十七年前。場所はこの辺境の森を含むノーベリー領。父と母とたくさんの使用人とともに暮らしていたんだ」
オーガストの顔は神妙だ。ドロシアは信じられないと思いつつも計算しながら話を聞く。