伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「その頃は治安が悪くてね。首都のほうを中心に政治がらみの事件や、放火が多発した。そのうちに、変な噂がたったんだ。この世におこる悪いことはすべて魔女のせいで、悪い政治家たちは魔女に洗脳されたんだとね」
「百年前の、魔女狩りですね?」
全ての元凶は魔女であるという噂を大半の貴族が信じ、まじないごとを口にする老婆や薬草に詳しい女性、その飼い猫たちが十数年にわたって斬殺された事件だ。
その期間に、ギールランドの平民の女性が半分は死んだのではないかと言われている。
「虐殺を逃れた人々は、どんどんこの辺境地へやって来た。父は、その人たちを全て受け入れていたんだ」
「……ひどいですね。魔女なんて本当はいないのにっ」
百年たった今、魔女と呼ばれる女性はただ知識が豊富なだけだったという見解になっている。国王もそれを認めて謝罪したはずだ。
「いや。いるんだよ」
しれっとした顔でそういわれて、ドロシアは息が止まった。
「確かに、魔女と言われた人の多くはただ知識が豊富なだけか多少癇の鋭いだけの女性たちだ。彼女らに飼われていた猫たちにも何の力もない。でも中には、確実に魔法を使える女性もいたし、使い魔の猫もいたんだ」
「え……、どうして」
「僕がその息子だからさ」
思わず目が点になる。意味が分からず、口をパクパクさせていると、オーガストは「ははっ」と笑い、ドロシアの頬を撫でた。