伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「凄い顔してる」
「や、だって」
オーガストはドロシアの赤毛を見つめ、その赤いベールを通して昔を懐かしむように目を細めた。
「父はね、貴族なのに社交界が嫌いで、使用人だった女性を無理矢理友人の貴族の養子に入れ、結婚した変わり者だ。それが僕の母で、本物の魔女だったんだよ。あ、魔女って言っても、空を飛んだりするわけじゃないんだ。魔法は目に見えるようなものじゃなくて、暗示だったり薬だったり、普通に人間生活の中であるものなんだよ。ただ、魔女が作ったものはその力が強いってだけ」
「強いって言うと?」
「例えば、母が作ってくれた熱さましは、飲んで一時間もしないうちに僕の熱を下げてくれたし、骨折したときも母の薬を飲んでいたら三日で治った。まじないや占いで、父の投資の仕事の手助けもしていたかな。あと、決定的にふつうの人と違うなと思えたのは、使い魔の猫と話をしていたことかな」
「猫と話ができるんですか? 羨ましい!」
「契約した猫だけらしいよ。猫に限らず、魔女は自分の目となり耳となって働いてくれる動物と、使い魔として契約するんだそうだ。フクロウやネズミなんかも使い魔になりやすい動物らしいんだけど、母の使い魔が猫だったせいか、この屋敷にいた魔女の使い魔はみんな猫だった」
「オーガスト様にも使い魔はいるんですか?」
「いいや。男には受け継ぎにくい能力らしくてね。まれに魔法を使える男もいたらしいけど、大抵は女性だったようだよ。……話を戻すけど、母が魔女だった関係で、父は魔女狩りから逃げてきた女性たちをみんな受け入れ、使用人として雇っていた。そんな環境だったからさ、僕にとって、魔法と思えるようなことは当たり前の日常だったんだ」