伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「そう。……それでますます疑問なのですけど、伯爵はどうして私をご所望なんですか。人の噂に乗るほど私の器量はよくないし、自領から出ない方なら、私を目にする機会もないでしょう。見ず知らずの貧乏男爵家の娘を嫁に欲しいと思うに至った動機をぜひ教えていただきたいですわ」
「それは、……私も分からないんだが」
「はい?」
ドロシアの睨みに、男爵は怯えつつ指先をこね回す。
「その、ほら。伯爵はきっと慈善家なんだよ。嫁に行き遅れた娘に救いの手を伸ばしたいと思ってくださったんだろう」
「はぁ?」
それを聞いて、むしろドロシアの苛立ちは募った。
誰が嫁にもらってくれなどと頼んだというのだ。勝手に不幸扱いされるされるのも納得がいかない。
確かに嫁には行き遅れているけれど、ドロシアは自分がこの屋敷を管理していることを誇りに思っていたし、今の生活がもう少し豊かになればなぁとは思いつつ、それなりには満足していたのだ。
「お断りしましょう」
「待てっ、それは無理だドロシア」
「なぜです?」
問いかければ、男爵は目を泳がせた。
「伯爵は支度金にと三十万ギルをくれると言っている。で、その。……これがないと、この督促状が無くならんのだ」
「は?」
父の足元に転がる書類。一枚取り上げてみると、確かに借金の支払いの催促だ。