伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
6.ふたり、手をとりあって
外に出れば日光がまぶしい。ドロシアはオーガストを抱きかかえたまま、森のほうへと向かった。
すぐさま足元に猫たちが寄って来て、見上げては「にゃーにゃー」と鳴いてくる。ドロシアの不安に耳を傾けてきてくれた猫たちだ。きっと祝福してくれているのだと思うとドロシアはうれしかった。
「ドロシア、降ろしてくれないか」
しかし、腕の中のオーガストはとび色の瞳を不満そうにゆがめて見上げてくる。
「あらでも、スキンシップを図るための散歩ですし、触っていないと意味がないでしょう?」
「でもさっきから、こいつらに冷やかされていて僕は落ちつかないよ」
「でも……きゃっ」
耐えかねたようにドロシアの腕に乗せた前足に力を込め、飛び出していく。
オーガストが飛び降りたことで、足元に群がっていた猫たちは四方に散っていった。
「まったくもう」
「猫ちゃんたちはなんて言っていたんですか?」
「……言いたくない」
拗ねたような声をだして、オーガストは先を歩く。
(あら、拗ねちゃった。これじゃ、ただのお散歩と変わらないなぁ)
尻尾をピンと立てたまま、時折顔をきょろきょろとさせてオーガストは前を行く。
細身の体に薄茶の毛並み。大きな森に対してその体はとても小さいのに、オーラでも纏っているかのように存在感がある。
(猫のときも、綺麗)
猫の彼にまでときめくことのできる自分に不思議な気持ちになりながら、ドロシアがぽうっとしていると、オーガストは尻尾をパタパタとさせて、「おいで、ドロシア」と振り向く。
それはまるで手を差し伸べてくれているようで、ドロシアは単純にも嬉しくなり小走りで彼を追いかけた。