伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「支払期限が来週なのだ。なっ、頼む」
情けない顔でペコペコ頭を下げる父親に、ドロシアはこぶしを震わせる。
この親は娘を金と変える気か。
「お父様。支度金というのは嫁入り道具をそろえるためのお金であって、決して借金支払いのお金ではありませんのよ」
「しかし、回らないのだから仕方ないだろう。ヒースの給料が出るのもまだ先だし」
「じゃあお父様が臓器でも何でも売ってこればよろしいんじゃないの」
「なんてことを言うんだ。ドロシア!」
「お父様が私に言っているのはそういうことよ!」
ドロシアは父親の手の中にある手紙を叩きつけた。
床に落ちたそれは風に乗って四方に広がる。慌てて拾い出す男爵を見て、ドロシアは泣けてきそうだった。
地団駄を踏み、壁に八つ当たりをして、唇を噛み涙をこらえる。
「ドロシア……そんなに嫌か?」
手紙を拾うのをやめ、気遣うように肩に手をのせてきた父親をドロシアはちらりと見る。
考えなしで調子もいい父親ではあるが、母が死ぬまでは精悍で優しいところもあって格好良かった。すっかり憔悴しきった今は頬もこけ、体もすっかりひょろ長いだけになり、なんとも痛ましい。
快活だったあの頃を思い出すと、ドロシアとてもう一度父にチャンスを与えたいという気持ちにはなる。