Innocent -イノセント-
「うそ!!」


「ホント。俺がホストやってる頃の話だけどな」


「うそっ!!!!」



更なる驚き証言で、あたしの瞼はパチパチと慌ただしくなる。

アホ面晒して、口がパクパクと落ち着きをなくす。

きっとこれは、どうしようもないほどのショック症状だ!!


だ、だって、きょ、響ちゃんが……ホスト!?


見た目だけなら、ホストでも通じるかもしれない。

ううん、寧ろ似合ってるとも言える。

でも、煌びやかな世界で甘い声で囁いて、女の人を騙すようにして接客する、マンガや小説に載ってるあのホストと同じだと言うのならば……。


あたしの知ってる響ちゃんとはかけ離れてる!!


あたしの知っている響ちゃんは、ノンちゃんを本当に大事にしていて。

いくらノンちゃんがドジをしても広い心で受け止めて、そりゃあもう可愛くて仕方ないってほど大切にしていて。

ノンちゃんの姪であるあたしにも、優しくしてくれる完璧な人なのに。

そんな響ちゃんが、偽りの優しさを大多数の女の人達に振り撒いてた?

しかも、傷ついちゃうほど好きな人までもがいて────……





「そんなに驚くことか?」



ショック症状が治まらないあたしを見て、響ちゃんが困ったように笑う。

困られてもあたしも困る。

まさかの、こんな過去バナをカミングアウトされて、どう処理していいのか分からない。

ショック症状に加えて、首をコクコクと何度も縦に振る以外、響ちゃんに返事も出来やしない。



「俺が失恋したことに驚いてんのか、ホストやってたことに驚いてんのか分かんねぇけど」


「…………」


「どっちもホントの話だ」


「…………」


「ホスト時代、どうしようもなく惚れてた女がいた」


「っ!」


「今も時々思い出す。忘れられない女だ」


「なっ!!!!」



思い出すって?
忘れられない……って?


だって……、だって響ちゃんにはノンちゃんがいるじゃん!!

ノンちゃんにしか興味ないって、ついさっき言ったばっかじゃん!!

アレは嘘だったの?

懐かしむように遠くを見ながら、そんなことサラっと言わないで!!

そこまで正直になり過ぎないでっ!!

もし、もしも、そんな大好きな人と再会でもしちゃったとしたら……。
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