Innocent -イノセント-




「望なら全部知ってる。俺がホストやってたことも、惚れた女がいたことも」



守るどころか、手遅れだったらしい。

もう全部ノンちゃんは知っているらしい。



「望は最高の女だ。俺みたいな最低な男を丸ごと受け入れてくれたんだからな」


「だったら────」



ノンちゃん一筋でいいじゃん!! 

って、続けようとした言葉は、響ちゃんによって呑み込まれた。



「でも、最低なホストとしての俺を救ってくれたのは……一華(いちか)だ」


「…………一華?」



初めて明らかにされた、忘れられないらしい女の名前に、自然と眉はつり上がり、声だってまた低くなったのに、響ちゃんは気にする素振りすらみせない。



「あぁ。尤(もっと)も、当時は呼び捨てなんて出来なかったけどな。年上だし、高嶺の花だし」



そう言ってオレンジを切りながら、フッって笑う余裕すら見せている。

こっちは、年上だという新たな事実まで付け加えられ



「……い、幾つ上だったの?」



上擦る声で訊くのが精一杯なのに。



「5コ」


「ご、5コ? 5コも上!?」



頷く響ちゃんを見ながら、目が丸くなる。


年上だとは思ってもみなかった。

ノンちゃんが可愛らしいタイプだから、何の根拠もなしに同い年か年下だと漠然と思ってた。

年上なんて、全くのノーマークだ!!

だって、5つも上って言ったら、相当大人の女性じゃん!!

可愛らしいって言うには、憚(はばか)られる年齢じゃん!!


今日は、驚き続きだ。

驚き過ぎて、あたしの脳内は相当に忙しい。

次々と突き付けられる真実に、追いついていくだけでもやっとだ。

なのに、あたしの知らない響ちゃんは、今日はとことん迄にあたしを追い詰める気でいるらしい。



「年下の俺からみても、すげぇ綺麗な人だった。老舗のクラブで、夜を上がるまで不動のN0.1を張ってた女だ。

放つオーラさえ他の女とはまるで違う。俺が働いてた店の界隈(かいわい)では、誰しもが一華を認めてたほど、いい女だった」
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