Innocent -イノセント-
ま、まさか、まさかの夜の女だった発言。

煌びやかな世界に蔓延(はびこ)る蝶の女の一人。

そんな人を響ちゃんが……?


驚きが積もり過ぎたのかもしれない。

積もり過ぎて、キャパ一杯になった忙しい頭は、ネジが外れたのかもしれない。

驚きが積もり過ぎで辿り着いた先は、震えるほどの怒りだった。

どうしようもない怒りが、あたしの全身を駆け巡る。


だって、夜の世界でしょ!?

まやかしの世界でしょ!?


どんなに綺麗だとしたって、響ちゃんがそうだったように、やってることは偽りじゃん!!

お客さんに媚売って、優しい言葉のひとつもかけたって、所詮それは偽善でしかないじゃん!!

偽善の見返りに、沢山のお金を貰うんでしょ!?

そんな女がどんなに綺麗だとしても、それは外見だけであって、中身までが綺麗なはずなんてない!!

損得勘定だけで動く計算高い女に決まってるじゃん!!


両手をバタンとカウンターに叩きつけ、怒りを乗せる。

その音に手を休め、顔を上げてあたしを見る響ちゃんを真っ直ぐに見据えた。



「そんな女のどこがいいの!! 
ノンちゃんの方がよっぽど綺麗じゃん!!

迷子になって困ってるおばあちゃんを放って置けないほど、ノンちゃんは心まで綺麗なんだよ。

自分が迷子になることも考えずに、困った人には手を差し伸べる優しい人なんだよ。

綺麗って言うのは、ノンちゃんみたいな人を言うの!! 
顔だけじゃない!! 中身まで綺麗なノンちゃんみたいな人のことを言うの!! 

そんな女、綺麗なんかじゃない!! ずるいだけじゃん!」



一気に捲し立てて息遣いが荒くなるあたしを、



「七海」



洗った手をタオルで拭う響ちゃんが、低い声で止めに入る。



「一華を悪く言うな。例え七海でも、一華を悪く言うのは俺が赦(ゆる)さねぇ」



あたしとは比べものにならないほどの威嚇的低い声で、怒ってるあたしを怖気づかせる。


こんなの理不尽だ。

理不尽すぎる。
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