Innocent -イノセント-
「確かにな? 七海が思い描くように、夜の世界は歪んだ世界だ。七海には見せたくないほど、欲に塗れた汚い部分も沢山ある」



でしょ?
やっぱりそうでしょ!?


そう言いたい気持ちをグッと堪える。

怖い目ではもうなくなってるけど。

穏やかに話してはいるけれども。

さっき見たばかりの瞳を思えば、ここは大人しくしているしかない。

それでも理不尽さが消えないあたしは、せめてもの反抗とばかりに、大きくうんうんと大袈裟なまでに頷いて見せた。



「金の為なら何でもやるヤツが溢れてる。その為なら、仲間だって思ってたヤツでさえ裏切るし、妬み嫉みは当たり前。足の引っ張り合いはザラだ。

そんな何も信じられなくなる中で、唯一信じられんのは金だって、そう思うまでに、さして時間はかからなかった。
また、そう思わなきゃ生きにくかった」


「…………」


「身体が弱くて入院がちな母親の為に稼ぎたくて飛び込んだ世界は、そんな醜い場所だった。だったら、その世界のやり方でのし上がるしかないだろ?」



いや……だろ? って、そんなことあたしに言われても……。

やっぱり怖い世界!! ってしか思えないあたしは、何も返せやしない。

もっとも、本気であたしに意見も同意も求めていたわけではなかったらしい響ちゃんは、

また取り出した煙草に火を点けるまでの、場繋ぎ的な感じで話を振っただけなのかもしれない。

その証拠に、あたしを見ずに煙草を吹かす響ちゃんは、吐き出される白い煙を見つめている。

儚く消える煙だけを見つめている。

でもそれは、煙の向こうに遠い過去を映していたのかもしれない。
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